共謀罪について

最近共謀罪についての騒動がおこっているが、
その共謀罪について、戦前の治安維持法と似ていると指摘する人もいる。
以下は、治安維持法を要約したものである。

「国体ヲ変革スルコトヲ目的トシテ結社ヲ組織シタル者又ハ結社ノ
役員其ノ他指導者タル任務ニ従事シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ５年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ処す」
「私有財産制度ヲ否認スルコトヲ目的トシテ結社ヲ組織シタル者、
結社ニ加入シタル者又ハ結社ノ目的遂行ノ為ニスル行為ヲ為シタル者ハ
１０年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス」
「未遂罪ハ之ヲ罰ス」
「国体を変革し私有財産制度を否定する目的ヲ以テ其ノ目的タル事項ノ実行ニ関シ
協議ヲ為シタル者ハ７年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス」
「教唆・幇助・扇動する者も懲役刑に処す」

この法律は、もとは社会主義者を取り締まるのが目的であったが、当時の世相と戦時中という時代
背景により過大に解釈され、日本の歴史上で最悪の法律で言論弾圧の象徴といわれている。
しかし、現在もこの治安維持法に内容が殆ど似ている法律が存在する。

刑法77条
１　「国の統治機構を破壊し、またはその領土において国権を排除して権力を行使し、
その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者は、
内乱の罪とし、次の区分にしたがって処罰する。
①首謀者は死刑または無期禁固にする
②謀議に参与し、又は群衆を指揮した者は無期または3年以上の禁固に処し、
その他諸般の職務に従事した者は1年以上10年以下の懲役に処する。
③付和随行し、その他単に暴動に参加した者は、3年以下の禁固に処する。
２　前項の未遂は罰する。ただし、前項第3号に規定する者についてはこの限りではない。
78条
内乱の予備又は陰謀をした者は、1年以上10年以下の禁固に処す。
79条
77・78条の罪を何らかの行為により幇助した者は、7年以下の禁固に処す。
80条
暴動に至る前に自首したら刑を免除する。
81条
外国と通謀して日本に武力を行使させた者は死刑に処す
82条
日本に対する武力の行使に加担した者は死刑又は無期若しくは2年以上の懲役に処す
88条
81・82条の罪の予備または陰謀をした者は、1年以上10年以下の懲役に処す」

これは一般的には内乱に関する罪と外患に関する罪といわれるものだが、
この法律の78条に「内乱の予備・陰謀をした者は、禁固刑に処す」とある。
予備というのは内乱を行う為の具体的な準備行為のことで、
陰謀というのは、複数の者が内乱を計画し、合意に達することである。
複数の者が内乱を計画して合意に達した時点で、1年以上10年以下の禁固刑が成立
するのである。
そして、77条の罪に対して、教唆・幇助の形態で外部から関与した者に共犯が成立
するかは肯定説と否定説があるが、78条の予備・陰謀を教唆した者に対しては、
破壊活動防止法38条2項1号により、内乱予備・陰謀の独立教唆罪となる。

このように、すでに共謀罪の形態をとった法律が存在するのであり、
共謀罪が新設されるからといって、刑法の形態を大きく変えるものではない。


このように、解釈を抜きにして文面だけ見れば、治安維持法に匹敵するような内容の
法律は沢山あって、その法律が過大に解釈されるのを防いでいるのは
議会制民主主義であり、世論である。
そう雖も、以前の衆議院法務委員会で誰かが指摘していたように、この国は何かあると
一方向に集中して突き進む癖がある。であるから、ある程度の歯止めが必要であるが
与野党の案を見ていると、市民団体には適応しないとか、国際的な犯罪組織のみに適応
するなど、根本的に違うような気がする。



ところで、内乱・外患に関する罪と、現在政府が成立を目指している共謀罪は何が
違うのかというと、政府の提出理由に
「組織的に実行される悪質かつ執拗な強制執行妨害事犯等に適切に対処するため、」
とあり、内乱・外患に関する罪とは多少次元が違っている。
強制執行妨害への対処というから、マスコミは反戦運動や反基地運動のようなもの
が弾圧される危険があると報じているが、世論がそこまでいかないだろうし、
そもそも正当に基地を建設するために派遣された者を実力で阻止して
追い出そうとする行為が違法行為であり、
法治国家への挑戦だということを自覚するべきである。
そもそもの行為が違法でなければ、共謀罪も成立しないのである。